火災保険は、万が一の火災被害に備えるための大切な保険ですが、保険金の請求をしても、経年劣化と判断されて自分が期待していた金額よりも低かったり、納得できないことがあります。そのような場合には、再審査依頼や損保ADRセンターへの相談、弁護士に相談するなど、様々な方法があります。本記事では、経年劣化など火災保険の査定結果に納得がいかない場合にできることを、詳しく解説します。自分に合った対処法と解決策を見つけましょう。
「経年劣化」とは
「経年劣化」とは、物の老朽化や劣化を指す言葉であり、時間の経過とともに品質や性能が低下する現象を指します。
建物や家財道具などの耐用年数は限られているため、経年劣化が進行すると修理や更新が必要になります。
経年劣化とみなされる主なケース
経年劣化は、さまざまな要因によって引き起こされます。
以下は、おもに経年劣化とみなされるケースです。
建築年月が古い家屋にて、屋根裏や天井が腐っており、雨漏りした
古い建物では、屋根裏や天井の木材が腐食している可能性があります。このように年月を経て、雨水がしみ込み、木材を劣化させることで雨漏り被害につながるケースが多くみられます。このような状況は、経年劣化とみなされ、火災保険の補償対象外となります。
被害が拡大する前に、屋根裏や天井の点検を行い修理や補修が必要になります。
長年の風や雨、太陽光を浴びたことで外壁が劣化して剥がれた
長い期間にわたり、風や雨、太陽光の影響を受けることで、建物の外壁は劣化し、剥がれることがあります。このようなケースは経年劣化とみなされるため、外壁塗装のはがれやひび割れは補償対象外となります。

家具家電が劣化により破損した
火災保険に家財補償を付帯している場合、家具家電も補償の対象となります。しかし、経年劣化による家具や家電製品の破損・故障は補償対象外です。使用頻度による摩耗によって家具や家電製品は破損してしまいますが、まずはメーカー保証の期間を確認してみましょう。

火災保険における経年劣化の査定方法
火災保険では、経年劣化が原因の損害に対する補償は基本的に行われません。
火災保険は「予測不可能な偶然な事故」に備えるものであり、予測可能な経年劣化による事故は補償対象外となります。
しかし、被害原因が経年劣化かどうかを判断することは、非常に困難です。そのため、プロの業者や鑑定人、保険会社が協力をして査定を行います。
ここからは、調査員と保険会社から派遣される鑑定人の違いを説明します。
損害保険鑑定人による調査
損害保険会社から派遣される鑑定人は、損害保険登録鑑定人といいます。事故の原因を突き止めたり、状況調査、損害額の鑑定を行います。損害保険登録鑑定人は、損害鑑定人の資格に合格した人のみが携わることができます。
資格保有者である損害鑑定人は、保険会社から選定(派遣)されて現地調査に行き、この損害鑑定人による査定をもとに、保険会社が支払う保険金額を決定します。
基本的に、火災保険の査定は写真と修理見積書で行われますが、修理見積書の金額が大きい場合や、経年劣化との区別が難しい場合などは鑑定人が現地に赴くことになります。
参考:損害鑑定人
専門業者の調査員
専門業者の調査員は、損害保険会社からの依頼でくる損害鑑定人とは異なり、損害保険登録鑑定人の資格を保有しているとは限りません。
火災保険申請代行費用を請求して、現地調査や修理見積書の作成、保険金請求書の記入サポートなどを行います。
調査員が査定する金額は、必ずしもすべて保険金として支払われるわけではありません。水増しされた修理見積書を作成された場合、結局は損害保険鑑定人によって正しく査定されることになります。
悪質な調査員の詐欺が多発しているため、注意が必要です。
経年劣化と誤解されがちな事例
保険に加入することで、万が一の災害に備えることができます。火災や地震などが起こった場合、保険金の請求が可能ですが、保険金が支払われるかどうかは、被害の状況によって異なります。ここでは、経年劣化と誤解されがちな事例を具体的に紹介します。
屋根材のズレ・浮き
屋根材のズレや浮きは、建物の経年劣化によって発生すると考えられています。しかし、風災などの災害によっても屋根材がズレたり浮いたりすることがあります。この場合、保険金の支払い対象となる可能性があります。経年劣化が原因ではない場合は、風災の保険金支払い対象となる場合があるため、屋根材のズレや浮きが発生した場合は、保険会社に連絡し、保険金の請求を検討してみることをおすすめします。
屋根材の割れ、ヒビ、欠け
屋根材に割れ、ヒビ、欠けが生じた場合、保険金の支払い対象となることがあります。ただし、屋根材の劣化によって生じたものか、それ以外の原因によって生じたものかによって異なります。屋根材の劣化によって生じた場合は、支払い対象外となりますが、風災や落雷などの自然災害によって生じたヒビなどは、支払い対象となる場合があります。
屋根板金の浮き、剥がれ
屋根板金に浮きや剥がれが生じた場合も、保険金の支払い対象となることがあります。例えば、風災や雹災によって屋根板金が飛散することがあり、その際に生じた浮きや剥がれは、保険金の支払い対象となり得ます。しかし、経年劣化によって生じた浮きや剥がれは対象外です。
経年劣化による修理費用を抑える方法
建物はメンテナンス費用などの維持費がつきものです。メンテナンスを怠っていると、経年劣化による修理費用がかなり高額になってしまうことがあります。
しかし、定期的な点検や補助金・助成金の活用、工事業者との交渉など、いくつかの方法を実践することで、修理費用を抑えることができます。ここでは、経年劣化による修理費用を抑えるための方法を紹介します。
定期的に点検を行う
建物の経年劣化を防ぐためには、定期的な点検が必要です。点検を行うことで、早期発見しやすくなり、修理費用を抑えることができます。特に、屋根や外壁、排水管などの耐用年数が短い部分は、こまめな点検が必要です。早期発見によって、雨漏りなどの二次被害を防ぐこともできます。建物の管理会社や専門業者に相談してみましょう。
補助金・助成金を活用する
補助金や助成金を活用することで、経年劣化による修理費用を抑えることができます。例えば、国や自治体からの助成金や、建築業界の団体からの補助金があり、家の所在地や工事内容によって決まります。
省エネ対策や防災対策を行う場合にも、補助金が出ることがあります。
詳しくは、自治体や業者に問い合わせてみることをおすすめします。
工事業者に交渉する
修理費用を抑えるためには、工事業者と交渉することも重要です。複数の業者から見積もりを取り、比較することで、費用を削減することができます。また、業者との交渉によって、費用の削減や修理期間の短縮などを要望することもできます。
火災保険の査定結果に納得いかない場合にできること
火災保険は、火災や自然災害などの偶然な事故から生活を守るために加入するものです。しかし、保険金の請求をしても査定結果が想定していた金額よりも低くなることがあります。ここでは、納得いかない気持ちが生じた場合にできることを紹介します。
再審査依頼
保険会社によっては再審査請求制度というものがあり、最初の査定結果に対して再査定を依頼することができます。
ただし、再審査の結果が必ずしも改善されるわけではありませんので注意が必要です。
再審査の依頼は、保険会社の担当損害サービス拠点のほか社外弁護士から請求することが可能です。
再審査依頼をする場合は、自分の主張をしっかりと整理し、根拠を明確に示すことが重要です。
参考:東京海上日動
火災保険の申請サポートを利用
火災保険の申請サポートを利用することで、専門家のアドバイスを受けることができます。保険金請求の手続きや書類作成など、手間やストレスを減らすことができるため、検討してみる価値があります。
しかし、悪徳な詐欺などが多発しているため注意して業者選びを行ってください。
「そんぽADRセンター」に相談
損害保険契約紛争処理機構(ADR)は、保険金の支払い等のトラブル解決を支援する機関です。
そんぽADRセンターへの相談や苦情、紛争解決手続きに関する費用は無料(郵送代や通話料金などは自己負担)であり、信頼できる機関です。
昨今、火災保険が使えるから、と虚偽の勧誘によって住宅修理の契約を迫る悪徳業者が増加しています。そんぽADRセンターでは、このような相談が相次いでいます。住宅修理の契約をする前に、保険会社へ連絡をして、本当に火災保険の適用になるのかを確認するようにしましょう。
参考:そんぽADRセンター
弁護士に相談
保険会社との話し合いにおいて意見の対立が深刻化し、解決が難しい場合には、弁護士に相談することも検討してみましょう。弁護士は、保険金請求に関する知識や経験が豊富であり、最善の解決方法を提供してくれる可能性があります。
まとめ
火災保険の査定結果に納得できない場合には、再審査依頼や申請サポートの利用、ADRセンターへの相談、弁護士に相談するなど、様々な対処法があります。しかし、最も重要なのは、保険契約時にしっかりと内容説明を聞き、疑問を解決しておくことです。また、被害発生時には、正確な被害状況を記録し、必要な手続きを適切に行うことも大切です。火災保険は、被害が発生した際に、その後の生活を支えるための重要な役割を果たします。査定結果に不服があった場合は、自分に合った対処法を選択し、納得のいく解決策を見つけましょう。